デファレンシャルギアとミッションギヤはどちらも自動車のエンジンの動力をタイヤに伝えるためのギヤ(歯車)のひとつですが、形状と特性に大きな違いがあります。
デファレンシャルギヤには、食い違い軸の歯車で、高速回転が可能、比較的静かなハイポイドギヤが採用されています。かみあいが非常に複雑で金属接触部は摺動することで噛み合う摺動摩擦です。かみあいで摺動するため、条件によっては摩擦熱により油温が120℃~140℃前後に上昇する場合があります。
ミッションギヤには、平歯車や、はずば歯車などの、並行軸の歯車が使用されています。
デファレンシャルギヤとミッションギヤは、形状が異なる為、使用されるギヤオイルについても、適材適所に使用する必要があります。その目安となる規格として、API分類があります。次回は、ギヤオイルで一般的に用いられるAPI分類について、簡単にご説明していきたいと思います。
※API分類とは、アメリカ石油協会により定められたエンジンオイルの品質分類です。
ギヤオイルはAPI分類でGL-1~GL-6まであり、(表-1参照)その違いは、特に添加剤の種類・量によって分類されます。
API分類 | 油種 | 適油 | 自動車での使用箇所 |
---|---|---|---|
GL-1 | 直留鉱油 または残査鉱油 |
低荷重、低速のスーパーギヤ、ヘリカルギヤ、ウォームギヤ及び、べべルギヤに用いられる | 自動車の潤滑条件を満足させられないため、全く用いられない |
GL-2 | 油性剤 または油脂類を含む油 |
速度、荷重のやや過酷な条件下のウォームギヤ及び、その他のギヤ(ハイポイドギヤを除く)に用いられる | 自動車の潤滑を満足させられないため、特殊な場合を除いて使用されない |
GL-3 | 硫黄、りんの化合物または亜鉛の化合物のような極圧剤を加えた油 | GL-1,GL-2レベルのギヤオイルが不適当な条件下のギヤに用いる(ハイポイドギヤには不適当) | トランスミッション、ステアリングギヤ及び条件の緩やかなデファレンシャルギヤ(ハイポイドを除く)に用いる |
GL-4 | GL-3と同様 | ハイポイドギヤ及び極めて過酷な条件下の他のギヤに用いる。高速低トルク、低速高トルクにも耐える | デファレンシャルギヤ、トランスミッション及びステアリングギヤに用いる |
GL-5 | GL-3と同様 | GL-4よりも過酷な条件下のハイポイドギヤに用いる。高速低トルク、低速高トルク、高速衝撃荷重に耐える。 | 特に過酷な条件のデファレンシャルギヤに用いる |
GL-6 | GL-3と同様 | フォードの規格。ESW-M2C105A(特にオフセットの大きなハイポイドギヤに使用)を満足させるもの。 | この規格はフォードの規格 |
GL-3グレードから耐極圧剤、摩耗防止剤として硫黄、りんなどの化合物を配合し、GL-3からグレードが上がるにつれて、これら極圧添加剤が多く配合されています。そのため、GL-3よりGL-4、GL-4よりGL-5のグレードのギヤオイルは、耐極圧性、摩耗防止性について性能が向上しています。故により過酷な高荷重、摺動力が加わる条件のギヤ、デファレンシャルギヤ(ハイポイドギヤ)においては、GL-4、GL-5等のグレードが指定されています。
GL-5グレードのギヤオイルは、GL-3、GL-4と比較し、極圧耐極圧性、耐摩耗性に優れたオイルであるため、より良い状態で管理するためには、どの箇所においてもGL-5グレードのギヤオイルを入れておけば問題ないように思ってしまうのですが、実際は、グレードが高いオイルを使用すれば良いという具合にはいきません。次回は、オイルに配合される極圧添加剤の種類とその作用機構を簡単に解説し、オイルの選び方について考えていきたいとおもいます。
オイルに添加される各種EP剤には、以下のような作用機構があります。
長所 | 短所 | 代表的な化合物 | |
物理吸着型油性剤 | 腐食しない | 効果弱 | アルコール エステル等 |
化学吸着型油性剤 | 吸着力大 | 化学摩耗 | オレイン酸 ステアリン酸等 |
自己分解重合型EP剤 | 腐食しにくい | 無灰でない | Zn-DTP Mo-DTC |
金属表面反応型EP剤 | 効果大 | 化学摩耗スラッジが発生 する高温により酸化される (酸化物はオイル劣化や 金属劣化の原因となる) |
塩素系、リン系 硫黄系添加剤 |
固体潤滑剤 | 金属表面への影響小、 固体潤滑剤の種類に より摩擦係数極小 |
粒子が大きいと不純物と なったり、金属表面に 吸着しにくくなったりする。 |
二硫化モリブデン グラファイト等 |
GL-4、GL-5は金属表面反応型EP剤であるリン系・硫黄系化合物が高濃度配合されており、対極圧性・摩耗防止性が非常に高いギヤオイルであると言えます。
これらの化合物は金属表面に強力に吸着し、高い耐極圧性・耐摩耗性を付加することが出来ます。
金属表面反応型EP剤の極圧添加剤をオイルの中に添加することで、耐極圧性・摩耗防止性が非常に向上することが出来ますが、極圧添加剤事態が金属表面と反応するため、金属表面では科学的な摩耗に曝される可能性が高くなるともいえます。
また、これらの添加剤は反応性が高く、比較的酸化されやすく、その酸化物がオイル中のスラッジ発生・オイル劣化・金属劣化、オイルの泡立ちを引き起こす原因となる場合があります。(市販されているオイルは酸化防止剤などを配合しているため、通常使用するにあたり、大きな影響を与えることはありません。)
これら化合物の過剰な添加は逆に悪影響を及ぼす可能性があり、このことを考慮し、使用するオイルを選定する必要があります。
EP剤の適切な添加量の概念
化学的摩耗 < 物理的摩耗
ミッションギヤでは、必要以上にグレードの高いギヤオイルを使用すると、化学的摩耗、金属表面の酸化により、ミッションの当たり面、シンクロナイザー当たり面の劣化が促進され、変速時のスベリの原因となる場合があります。 又、必要以上に極圧添加剤などの化学物質を多く含むオイルは、油温が上昇した際、添加されている化学物質が化学反応し、オイルの劣化の促進、オイル泡立ちの促進の原因になる可能性があります。
デファレンシャルギヤは、自動車に使用されるギヤの中でも最も極圧のかかる箇所であり、そこに使用されるオイルも耐極圧性を高めたオイルが必要となります。従って、GL-4、GL-5等のグレードの高いギヤオイルを使用する必要があります。
弊社のギヤ潤滑製品に配合される二硫化モリブデン・二硫化タングステンは、へき開により潤滑するため(3.各種EP(耐極圧)添加剤の作用機構:参照)、硫黄系・リン系の金属表面反応型EP剤でみられるような化学的摩耗を起こすことなく、優れた極圧性、潤滑性を向上します。 潤滑性が向上し、摩擦抵抗が低減されると、ギヤオイル油温上昇を低減し、さらにはギヤオイルの劣化低減することが出来ます。また、化学的安定性が良好であるのでギヤオイルにすでに配合されている化学物質との相性も良好です。
弊社ギヤ用オイル添加剤製品は、極圧性、潤滑性をより向上するため、二硫化モリブデン(GXシリーズは、二硫化モリブデン・二硫化タングステン)を高濃度配合しております。
製品名 | 製品写真 | 特長 |
GX-Ⅰ GX-Ⅴ デファレンシャルギヤ専用 |
高精製鉱物油をシリカゲルにより増ちょうし、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、摩耗防止剤を配合したもの | |
ギヤコート デファレンシャルギヤ専用 |
SPI分類GL-5グレードオイルに二硫化モリブデンを分散させた高精製鉱物油を配合したもの | |
製品解説 | ||
デファレンシャルギヤにおいては、ハイポイドギヤを採用しているため、金属接触部の噛み合わせは非常に複雑でまた摺動摩擦しています。(1.デファレンシャルギヤとミッションギヤの形状:参照)そのため、へき開により潤滑する二硫化モリブデン・二硫化タングステン皮膜は非常に有効(ギヤコートには、二硫化タングステンは含まれません)で、ギヤオイルに製品を添加することで摩擦抵抗の低減、金属摩耗低減、ギヤオイルの油温上昇低減することができます。 | ||
製品名 | 製品写真 | 特長 |
TM-V ミッションギヤ専用 |
高精製鉱物油に二硫化モリブデンを配合したもの | |
製品解説 | ||
ミッションギヤは、そのギヤ(歯)が金属摩耗により劣化すると、ギヤの噛み合わせが悪くなり、スムーズなギヤチェンジが行なえなくなったり、動力の伝達に支障がでたりします。製品をミッションギヤオイルに添加することで、摩耗劣化低減、潤滑性向上、湯温上昇を低減し、ギヤの劣化を低減、長期にわたってスムーズなギヤチェンジを行なうことが可能となります。また、製品中に配合される二硫化モリブデンの粒子は1μ以下(平均粒系0.09μ)の超微粒子であるため、オイルクーラーのエレメントを詰まらせるなどの不良の発生はありません。 |
どのような箇所に使用した場合でも、すでに金属面が著しく摩耗していると、金属表面に適当な皮膜を形成することが出来ず、本来の性能を発揮することが出来ません。添加するオイルが著しく劣化している場合も同様です。(表-4参照)
[表-4 二硫化モリブデン皮膜の形成]
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